春の七十二候 立春から穀雨まで
立春から穀雨まで、二月のはじめから五月のはじめまでの十八候です。氷がとけ、虫が目をさまし、梅から桃、桜へと花が移っていきます。七十二候の名前にも、「はじめて」という言葉がとくに多く出てくる季節です。
立春りっしゅん2月4日ごろ・Beginning of spring
暦の上で春が始まる日です。寒さはまだ厳しいものの、日差しは少しずつ明るさを増していきます。立春の前の日が節分で、昔はこの日を一年の区切りと考えていました。
東風解凍はるかぜこおりをとく
春の訪れを告げる東からの風が、冬のあいだ固く張っていた氷をとかしはじめるころです。「東風」は「こち」とも読み、春を運ぶ風として古くから歌に詠まれてきました。暦の上では春になったばかりで寒さは続きますが、日差しには少しずつ力が戻ってきます。
英語では “East wind melts the ice”
黄鶯睍睆うぐいすなく
山里で鶯が鳴きはじめるころです。「睍睆」は、鳥の声が美しいさまを表す言葉です。鳴きはじめの鶯はまだ上手に鳴けないことも多く、日を追うごとに声が整っていく様子に春の深まりを感じられます。鶯は「春告鳥(はるつげどり)」とも呼ばれます。
英語では “Bush warblers sing”
魚上氷うおこおりをいずる
水がぬるみ、割れた氷のあいだから魚が跳ね上がるころです。冬のあいだ水底でじっとしていた魚たちが、少しずつ動きはじめます。湖や川の氷がゆるむ様子が、季節の変わり目を知らせてくれます。
英語では “Fish rise through the ice”
雨水うすい2月19日ごろ・Rain water
降る雪が雨に変わり、積もった雪や氷がとけて水になるころです。昔から、田畑の準備を始める目安とされてきました。
土脉潤起つちのしょううるおいおこる
降る雪が雨へと変わり、凍っていた大地がしっとりと潤いはじめるころです。「脉」は脈のことで、土の中を巡る水や力を表しています。土がやわらかくなると、田畑の準備が始まります。
英語では “Rain moistens the soil”
霞始靆かすみはじめてたなびく
春霞が山や野にうすくたなびき、遠くの景色がぼんやりとかすんで見えるころです。同じような現象を、昼は「霞」、夜は「朧(おぼろ)」と呼び分けるのは、日本語ならではの細やかさです。どちらも春を表す言葉として親しまれています。
英語では “Mist begins to linger”
草木萌動そうもくめばえいずる
草や木が芽吹きはじめるころです。冬のあいだ枯れたように見えた枝先にも小さな芽がふくらみ、あたりに淡い緑が少しずつ増えていきます。「萌」は芽が出る様子を表す字で、「萌黄色(もえぎいろ)」という色の名にも使われています。
英語では “Plants begin to sprout”
啓蟄けいちつ3月6日ごろ・Insects awaken
「啓」はひらく、「蟄」は土の中にこもる虫のことです。冬のあいだ土の中で眠っていた生き物たちが、戸を開くように地上へ出てくるころをいいます。
蟄虫啓戸すごもりむしとをひらく
土の中で冬を越した虫たちが、戸を開くように地上へ出てくるころです。ここでの「虫」は昆虫だけでなく、蛙や蛇など冬ごもりをする生き物全体を指しています。暖かい日が増え、庭や公園でも生き物の気配が感じられるようになります。
英語では “Hibernating insects come out”
桃始笑ももはじめてさく
桃のつぼみがほころび、花が咲きはじめるころです。昔は花が咲くことを「笑う」と表し、春の山の明るい様子を「山笑う」とも言いました。桃の節句(ひな祭り)は旧暦の三月三日の行事で、もとはちょうどこの時期にあたっていました。
英語では “First peach blossoms”
菜虫化蝶なむしちょうとなる
冬を越した青虫がさなぎから羽化し、蝶となって舞うころです。「菜虫」は大根や菜の花などの葉を食べる青虫のことで、その多くはモンシロチョウの幼虫です。菜の花畑の上を白い蝶が飛ぶ風景は、春を代表する眺めのひとつです。
英語では “Caterpillars become butterflies”
春分しゅんぶん3月21日ごろ・Spring equinox
昼と夜の長さがほぼ同じになる日です。この日をまん中にした七日間が春のお彼岸で、ここから昼の時間が夜より長くなっていきます。
雀始巣すずめはじめてすくう
雀が枯れ草や小枝を運び、巣を作りはじめるころです。雀は人の暮らしのすぐそばで子育てをする身近な鳥で、屋根のすき間や軒下などに巣をかけます。昼と夜の長さがほぼ同じになり、生き物の営みが一気に活発になります。
英語では “Sparrows start to nest”
桜始開さくらはじめてひらく
桜の花が咲きはじめ、各地から開花の便りが届くころです。日本では昔から、桜の咲き具合を見て季節の進みや農作業の時期を計ってきました。開花から満開までは一週間ほどと短く、そのはかなさも長く愛されてきた理由のひとつです。
英語では “First cherry blossoms”
雷乃発声かみなりすなわちこえをはっす
春の雷が遠くで鳴りはじめるころです。春の雷は「春雷(しゅんらい)」と呼ばれ、冬ごもりしていた虫を起こすとも言われてきました。雨が多くなって大地が潤い、作物を育てる季節が本格的に始まります。
英語では “Distant thunder”
清明せいめい4月5日ごろ・Clear and bright
「清浄明潔」を略した言葉で、あらゆるものが清らかで生き生きとするころです。花が咲きそろい、空も明るく澄みわたります。
玄鳥至つばめきたる
「玄鳥」は燕のことで、南の国から燕が渡ってくるころです。燕は田畑の虫を食べてくれる鳥として大切にされ、軒先に巣を作ると縁起がよいとも言われてきました。毎年同じ巣に戻ってくることも多い鳥です。
英語では “Swallows return”
鴻雁北こうがんかえる
冬を日本で過ごした雁が、北の国へ帰っていくころです。列を作って飛ぶ姿は「雁行(がんこう)」と呼ばれ、絵や歌の題材にもなってきました。秋の「鴻雁来」と対になる候で、渡り鳥の行き来が季節の巡りを教えてくれます。
英語では “Wild geese fly north”
虹始見にじはじめてあらわる
春の雨上がりに、空に虹がかかりはじめるころです。空気が潤い、日差しが強くなることで、虹が見えやすくなります。冬のあいだ見られなかった虹が再び現れることを、季節の変化として捉えた候で、冬の「虹蔵不見」と対になっています。
英語では “First rainbows”
穀雨こくう4月20日ごろ・Grain rain
田畑の穀物をうるおす春の雨が降るころです。種まきに欠かせない恵みの雨とされました。茶摘みで知られる「八十八夜」は、この節気の終わりごろにあたります。
葭始生あしはじめてしょうず
水辺の葦(あし)が芽を出しはじめるころです。葦は「よし」とも呼ばれ、すだれやよしずの材料として暮らしに役立ってきました。水のぬるんだ川辺や湖のほとりで、若い芽が一斉に伸びていきます。
英語では “Reeds sprout”
霜止出苗しもやんでなえいずる
霜が降りなくなり、稲の苗がすくすくと育つころです。遅い霜は作物に大きな被害を与えるため、霜の終わりは農家にとって大切な節目でした。苗代で育てた苗は、やがて田植えで田んぼへ移されます。
英語では “Last frost, rice seedlings grow”
牡丹華ぼたんはなさく
大きくあでやかな牡丹の花が咲くころです。牡丹は「百花の王」とも呼ばれ、その華やかさから絵や着物の柄に数多く描かれてきました。春の終わりを彩る花で、この候を過ぎると暦は立夏を迎えます。
英語では “Peonies bloom”